いきなりだけどビリヤードに天才はいるか?となると少なくとも俺は居ると思う。天賦の才っていうのは
文字通り生まれ持ったもので、最後の最後に差になる部分だとも思う。残念ながら俺はビリヤードの
天才ではない自覚がある。努力と理論によってA級まで上がることは出来たがこんなことは実はその
環境や本人のやる気次第で誰でも出来ること。天才は理論や理屈がいらない。いや、それさえも
超えてしまうから天才なのだと思う。トッププロの中にはそのような人がたくさん居るのかもしれない。ただ
残念ながら俺の実力ではトッププロの天才ぶりを評価することが出来ない。言うなればいくら上手いと
言ってもアマチュアの将棋指しがプロ棋士の手筋を読めないのと似ているかもしれない。結果として
すごいことは分かっても、過程の中でそのすごさを体感するには自分と実力がある程度近い必要が
ある。これは一時的なものであっても良いし、自分より遥かに実力が現段階で劣っていても構わない。
自分が適正に評価できる範疇の中で俺は今まで天才と呼べるプレーヤーは一人しか知らない。彼は
公式戦の実績もなければ、特にすごいプレーをする訳でもない。でも、俺の中では彼は間違いなく
今まで知る中の唯一の天才だと思う。そんな彼がビリヤード界から突然姿を消したのはもう7年も前の
ことだったらしい。ちょうどセブンも不況による休業中で俺もビリヤードを1年くらい休んでブランクを作って
いた時期なので、後で風の噂に聞いただけだったけど、確かに復帰した俺に彼の噂はなかなか入って
来なかった。ビリヤード以外の噂は時々聞くことがあったけど、それも年に数回断片的なもので復帰
するとか、どこかで練習しているなんて話しは皆無。結婚したとか子供が生まれたといった個人的な
噂ばかりだった。
で、ここまで書くと気付いた人もいるでしょう。彼が今日ふらっとセブンに遊びに来ました。噂どおり今は
全くビリヤードはしていないらしく、時々職場の仲間に誘われて遊ぶ程度で一人撞きなんてのはもう
何年もしていないらしい。俺との再会は9年ぶり。お互いの近況をちょっと話しして彼はテーブルで
練習を始めました。確かにブランクがあるのは分かるし、精度なんてのは当時からすれば無いに等しい
内容の練習だったけど、一度身体が覚えたフォームは健在なものなんだよね。店に入って来た時には
誰だか分からなかったけど、キューを持って構えた瞬間に9年前にタイムスリップしたみたいだった。
これからも本格的に復活することはないらしい。でも、意固地にやらない訳でもないらしい。1時間軽く
転がした後に、「また、遊びに来ますよ」そう言い残して帰って言った。それだけで十分な気がする。
ちょっと練習すればすぐに元に戻って来るだろう。俺が最初に出会ったライバルとしてきっと面白い
ゲームが出来ると思う。久々にワクワクした。まだまだ調整は必要だろうけど、俺の想像なんかよりもっと
早く俺の前に立っているような気がする。なにせ俺が唯一天才と認めた奴だから…
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